モーツァルト、どの曲から聴くか ジャンル別の入口

赤い上着を着たモーツァルトの肖像画(1819年・クラフト画)に、「入口は編成の小ささで選ぶ。」の見出しを重ねたアイキャッチ
画=Wolfgang Amadeus Mozart/Barbara Krafft, 1819(Wikimedia Commons, パブリックドメイン)/文字は編集部

「モーツァルトを聴いてみたい」と思ったことがある人は多いはずです。名前は誰でも知っていますし、CMや映画で旋律も耳にしています。ところがいざ探すと、手が止まります。作品が600曲を超えるからです。

そこでこの記事では、以前の記事「クラシックの有名曲、まずはこの曲から」で使った並べ方をそのまま使います。「編成が小さい順」=音を出している人が少ない順です。音の数が少ないほど、旋律を追う負担が軽い。だから最初はピアノ1台から始めて、だんだん人数を増やしていきます。

ジャンルの違う6曲を、IMSLP(パブリックドメイン楽譜のライブラリー)の原典データで確かめながら並べました。最初の1曲は、3分半で終わります。

まず、6曲を編成順に並べる

順曲ジャンル編成(IMSLP記載)
1トルコ行進曲(ピアノソナタ第11番 K.331 第3楽章)ピアノ独奏ピアノ1台
2アイネ・クライネ・ナハトムジーク(K.525)セレナードヴァイオリン2・ヴィオラ・チェロ・コントラバス
3クラリネット協奏曲 イ長調(K.622)協奏曲独奏クラリネット+オーケストラ
4交響曲第40番 ト短調(K.550)交響曲オーケストラ
5交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」(K.551)交響曲オーケストラ
6レクイエム ニ短調(K.626)宗教曲独唱4+合唱+オーケストラ

※ 編成はIMSLPの各作品ページの記載(2026年8月取得)。K.のあとの数字は「ケッヘル番号」といって、モーツァルトの作品につけられた整理番号です。番号が大きいほど、おおむね後年の作品になります。

1曲目:トルコ行進曲 ――ピアノ1台、3分半

入口はここからで決まりです。ピアノ1台、約3分半。旋律は聴けば「ああ、これか」となるはずです。

実はこの曲、単独の曲ではなくピアノソナタ第11番の第3楽章です。ソナタの終楽章だけが独立して有名になりました。なぜ耳に残るのかは楽曲ガイドで、楽譜の構造は分析記事で詳しく書いています。

♪ 試聴:モーツァルト「トルコ行進曲」(K.331 第3楽章)

“Piano Sonata No. 11 in A major – III. Alla turca” by Bernd Krueger / CC BY-SA 3.0 DE

2曲目:アイネ・クライネ・ナハトムジーク ――弦5パート

次は少しだけ人数を増やします。ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦5パート。冒頭の「ソ・レ・ソ・レ・ソレソシレ」は、クラシックでいちばん有名な出だしのひとつです。

曲名は「小さな夜の音楽」という意味で、当時の社交の場のためのBGM的なジャンル(セレナード)です。気楽に聴くために書かれた曲なので、気楽に聴いていい。構えなくて大丈夫です。

3曲目:クラリネット協奏曲 ――「独奏+オーケストラ」の入口

ここでオーケストラが登場します。ただし主役は1人。協奏曲(コンチェルト)は、独奏者とオーケストラが掛け合う形式です。主役の音を追っていけばいいので、大編成でも聴きやすいのです。

モーツァルトの協奏曲ならピアノ協奏曲が有名ですが、入口として推したいのはクラリネット協奏曲です。亡くなる年の1791年に書かれた最晩年の作品で、特に第2楽章のゆっくりした楽章は、クラリネットという楽器のいちばん美しい音域がずっと続きます。

4・5曲目:交響曲第40番と第41番 ――1788年夏の2曲

いよいよ交響曲です。おすすめは第40番と第41番「ジュピター」のセット。IMSLPの記載では、第40番は1788年7月25日完成、第41番は同年8月10日完成。わずか2週間あまりの間に、性格の正反対な傑作が2つ生まれています。

第40番はト短調。モーツァルトの交響曲には珍しい短調で、冒頭からせき立てるような旋律が走ります。第41番はハ長調で、堂々として明るい。「翳りの40番、輝きの41番」を続けて聴くと、同じ作曲家の振れ幅が一度に分かります。40分×2はさすがに長いので、まずはそれぞれの第1楽章だけで十分です。

6曲目:レクイエム ――未完の絶筆

最後は声楽です。レクイエムは死者のためのミサ曲。編成は独唱4人、合唱、オーケストラと、この記事で最大になります。

この曲が特別なのは、モーツァルトの絶筆だということです。1791年、作曲の途中で本人が亡くなり、楽譜は未完のまま残されました。現在演奏されるのは、後世に補筆された版です。どこまでが本人の筆か、という議論そのものがこの曲の聴きどころのひとつになっています。冒頭の「Requiem aeternam」の数分だけでも、それまでの5曲と全く違う世界が開きます。

600曲の中の、6曲

今回の6曲が全体のどこにいるのか、少しだけ引いて見てみます。編集部でIMSLPのモーツァルト作品754項目を集計したところ、ケッヘル番号はK.1からK.626のレクイエムまで並んでいました。35年の生涯で600曲超。この記事の6曲は、その広大な地図の「入口の6駅」にすぎません。

編成の大きさで並べると(編集部作成) 右へ行くほど人数が増える。最初は左端から ピアノ1台 トルコ行進曲 弦5パート アイネ・クライネ 独奏+オーケストラ クラリネット協奏曲 オーケストラ 交響曲40・41番 +声楽 レクイエム 聴く順番の考え方 音の数が少ないほど旋律を追いやすい。まずピアノ1台の3分半から 協奏曲は「主役1人」を追えばよいので、大編成の入口に向く 交響曲とレクイエムは、まず第1楽章・冒頭だけでいい
編集部作成。IMSLPの編成データを人数順に並べ替えたもの。

6曲すべて、抜粋なら合計40分ほどで聴けます。気に入った駅が見つかったら、そこから路線を伸ばしてください。トルコ行進曲が気に入ればピアノソナタへ、クラリネット協奏曲が気に入れば他の協奏曲へ、レクイエムが気に入ればオペラへ。どの入口から入っても、その先は全部つながっています。