ベートーヴェン、どの曲から聴くか 交響曲だけではない入口

ベートーヴェンの自筆譜を写した画像に、「作品番号つきは159件、番号なしは168件ある」の見出しを重ねたアイキャッチ
自筆譜=ベートーヴェン『交響曲第9番/ミサ・ソレムニス』自筆譜(Wikimedia Commons, パブリックドメイン)/文字は編集部

ベートーヴェンと聞くと、まず交響曲が浮かびます。「運命」「田園」「第九」。どれも100人近いオーケストラで鳴らす大曲です。

いきなりそこから入ると、少し重たく感じるかもしれません。

そこで、作品の目録のほうを数えてみました。すると入口は交響曲でなくていいことが、数字で見えてきます。

作品番号を持たない曲のほうが、多い

楽譜のパブリックドメイン・ライブラリであるIMSLPから、ベートーヴェンの全項目を取得して仕分けました。

区分件数
IMSLPの総項目数361件
作品番号(Op.)を持つもの159件(Op.1 〜 Op.138)
WoO(作品番号なし)168件
Hess番号10件

Op.つきが159件、番号なしが168件。番号を持たない曲のほうが多いという結果でした。

WoOとは何か

WoOは「Werk ohne Opuszahl」の略です。作品番号のない作品という意味のドイツ語です。

ベートーヴェン自身が出版するときに番号を振らなかった曲が、後の時代に整理されてこの記号をもらいました。

ここで大事なのは、番号がない=重要でない、ではないということです。

いちばん分かりやすい例があります。「エリーゼのために」はWoO 59です。ベートーヴェンでもっとも知られた曲のひとつが、作品番号を持っていません。

モーツァルトとは、カタログの作り方が違う

当誌では先月、モーツァルトの作品を同じ方法で数えました。あちらはケッヘル番号(K.)という通し番号が、ほぼ全作品に振られています。

番号の付き方
モーツァルトケッヘル番号が全作品に通しで振られている
ベートーヴェン出版した曲にOp.、それ以外はWoOという別系統

モーツァルトのK番号は、後世の研究者が作曲順に整理し直したものです。ベートーヴェンのOp.は、本人が出版のときに付けた番号です。

出発点が違うので、性格も変わります。Op.番号は「出版された順」に近く、作曲された順とは必ずしも一致しません。そして出版しなかった曲は、そもそも番号の列に入っていない。

目録の形が、その作曲家の仕事のしかたを映している、ということです。

交響曲以外の入口

では、何から聴くか。編成が小さい順に並べ替えます。当誌がIMSLPで実測した3曲を軸に置きます。

曲番号編成調
エリーゼのためにWoO 59ピアノ1台イ短調
月光ソナタOp.27-2ピアノ1台嬰ハ短調
交響曲第9番Op.125独唱4人・混声合唱・オーケストラニ短調

いちばん上と下で、必要な人数がまるで違います。ピアノ1台と、100人規模。同じ作曲家の作品でも、聴く負担がこれだけ変わります。

交響曲は最後でいい、というのがここからの結論です。

ジャンルで見ると、こうなる

ベートーヴェンの仕事は、交響曲の外側に広がっています。

ジャンル代表的な曲
ピアノ小品エリーゼのために
ピアノソナタ悲愴、月光、テンペスト、ワルトシュタイン、熱情、告別
交響曲第3番「英雄」、第5番「運命」、第6番「田園」、第7番、第9番「合唱付き」
協奏曲ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ヴァイオリン協奏曲
室内楽弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏「大公」

ピアノソナタは32曲あり、生涯にわたって書かれています。交響曲が9曲なのに対して、3倍以上です。どちらが本業かという話ではありませんが、量としてはこちらのほうが厚い。

聴く順番の提案

編成の小さい順を基本に、こう組みます。

順曲この段階で分かること
1エリーゼのために旋律を追う。3分で終わる
2月光ソナタ 第1楽章和音の色が変わっていくのを聴く
3悲愴ソナタ 第2楽章歌うような旋律。ピアノの表現の幅
4ヴァイオリン協奏曲独奏とオーケストラの関係
5交響曲第5番「運命」短い動機がどう展開されるか
6交響曲第9番 第4楽章声まで加わる、最大の編成

この順番に従う必要はありません。ただ、途中で「よく分からない」と感じたら、編成の小さいほうへ戻ると立て直せます。曲が難しいのではなく、音の数が多すぎるだけ、ということがよくあります。

そして忘れずに。最初の1曲は、作品番号を持っていません。番号の有無は、聴く順番とは関係ないということです。