ベートーヴェンと聞くと、まず交響曲が浮かびます。「運命」「田園」「第九」。どれも100人近いオーケストラで鳴らす大曲です。
いきなりそこから入ると、少し重たく感じるかもしれません。
そこで、作品の目録のほうを数えてみました。すると入口は交響曲でなくていいことが、数字で見えてきます。
作品番号を持たない曲のほうが、多い
楽譜のパブリックドメイン・ライブラリであるIMSLPから、ベートーヴェンの全項目を取得して仕分けました。
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| IMSLPの総項目数 | 361件 |
| 作品番号(Op.)を持つもの | 159件(Op.1 〜 Op.138) |
| WoO(作品番号なし) | 168件 |
| Hess番号 | 10件 |
Op.つきが159件、番号なしが168件。番号を持たない曲のほうが多いという結果でした。
WoOとは何か
WoOは「Werk ohne Opuszahl」の略です。作品番号のない作品という意味のドイツ語です。
ベートーヴェン自身が出版するときに番号を振らなかった曲が、後の時代に整理されてこの記号をもらいました。
ここで大事なのは、番号がない=重要でない、ではないということです。
いちばん分かりやすい例があります。「エリーゼのために」はWoO 59です。ベートーヴェンでもっとも知られた曲のひとつが、作品番号を持っていません。
モーツァルトとは、カタログの作り方が違う
当誌では先月、モーツァルトの作品を同じ方法で数えました。あちらはケッヘル番号(K.)という通し番号が、ほぼ全作品に振られています。
| 番号の付き方 | |
|---|---|
| モーツァルト | ケッヘル番号が全作品に通しで振られている |
| ベートーヴェン | 出版した曲にOp.、それ以外はWoOという別系統 |
モーツァルトのK番号は、後世の研究者が作曲順に整理し直したものです。ベートーヴェンのOp.は、本人が出版のときに付けた番号です。
出発点が違うので、性格も変わります。Op.番号は「出版された順」に近く、作曲された順とは必ずしも一致しません。そして出版しなかった曲は、そもそも番号の列に入っていない。
目録の形が、その作曲家の仕事のしかたを映している、ということです。
交響曲以外の入口
では、何から聴くか。編成が小さい順に並べ替えます。当誌がIMSLPで実測した3曲を軸に置きます。
| 曲 | 番号 | 編成 | 調 |
|---|---|---|---|
| エリーゼのために | WoO 59 | ピアノ1台 | イ短調 |
| 月光ソナタ | Op.27-2 | ピアノ1台 | 嬰ハ短調 |
| 交響曲第9番 | Op.125 | 独唱4人・混声合唱・オーケストラ | ニ短調 |
いちばん上と下で、必要な人数がまるで違います。ピアノ1台と、100人規模。同じ作曲家の作品でも、聴く負担がこれだけ変わります。
交響曲は最後でいい、というのがここからの結論です。
ジャンルで見ると、こうなる
ベートーヴェンの仕事は、交響曲の外側に広がっています。
| ジャンル | 代表的な曲 |
|---|---|
| ピアノ小品 | エリーゼのために |
| ピアノソナタ | 悲愴、月光、テンペスト、ワルトシュタイン、熱情、告別 |
| 交響曲 | 第3番「英雄」、第5番「運命」、第6番「田園」、第7番、第9番「合唱付き」 |
| 協奏曲 | ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ヴァイオリン協奏曲 |
| 室内楽 | 弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏「大公」 |
ピアノソナタは32曲あり、生涯にわたって書かれています。交響曲が9曲なのに対して、3倍以上です。どちらが本業かという話ではありませんが、量としてはこちらのほうが厚い。
聴く順番の提案
編成の小さい順を基本に、こう組みます。
| 順 | 曲 | この段階で分かること |
|---|---|---|
| 1 | エリーゼのために | 旋律を追う。3分で終わる |
| 2 | 月光ソナタ 第1楽章 | 和音の色が変わっていくのを聴く |
| 3 | 悲愴ソナタ 第2楽章 | 歌うような旋律。ピアノの表現の幅 |
| 4 | ヴァイオリン協奏曲 | 独奏とオーケストラの関係 |
| 5 | 交響曲第5番「運命」 | 短い動機がどう展開されるか |
| 6 | 交響曲第9番 第4楽章 | 声まで加わる、最大の編成 |
この順番に従う必要はありません。ただ、途中で「よく分からない」と感じたら、編成の小さいほうへ戻ると立て直せます。曲が難しいのではなく、音の数が多すぎるだけ、ということがよくあります。
そして忘れずに。最初の1曲は、作品番号を持っていません。番号の有無は、聴く順番とは関係ないということです。