Voctave 声だけで、なぜオーケストラに聴こえるのか

コンデンサーマイクをショックマウントに吊った写真に、「Voctaveは11人いる」の見出しを重ねたアイキャッチ
写真=AKG C214 コンデンサーマイク/Lucasbosch(Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)/文字は編集部

楽器をひとつも使わずに、オーケストラのような厚みを出す。アカペラにはそういう曲があります。

どうやって成立しているのかを考えると、答えのひとつは人数です。

Voctave(ヴォクターヴ)というグループがいます。アメリカのセントラル・フロリダを拠点にした、11人のアカペラ・グループです。

11人は、多いのか少ないのか

声だけの音楽には、いくつかの形があります。人数で並べてみます。

形態人数の目安
一般的なアカペラ(バーバーショップなど)4〜6人
混声4部合唱4声部(人数は規模による)
Voctave11人
室内合唱団16〜40人

アカペラ・グループとしては多く、合唱団としては少ない。Voctaveはちょうど中間にいます。

この位置が、音にそのまま効いてきます。

人数が増えると、何ができるようになるか

4〜6人のアカペラでは、ひとり1声部が基本です。誰かが休むと、その声部が消えます。全員が常に鳴っていないと和音が成立しません。

11人いると、ここが変わります。ひとつの声部を2人で担当できるので、片方が息を継いでいる間ももう片方が鳴り続けられます。音が途切れずに伸びるのは、この余裕から来ています。

さらに、同じ声部を複数人で歌うと音に厚みが出ます。わずかな揺らぎが重なって、一人では出せない響きになります。合唱で聴く、あの層の厚さです。

では、合唱団にすればいいのか

そうはならないところに、11人という数の意味があります。

人数が増えるほど、細かい動きは難しくなります。40人が同時に素早いリズムを刻むと、わずかなズレが積み重なって輪郭がぼやけます。大人数の合唱がゆったりした曲を得意とするのは、この事情があります。

11人なら、全員が互いの声を聴きながら動けます。合唱の厚みと、少人数の機動力。その両方が成立する人数ということです。

ポップスやミュージカルのように、リズムが細かく転調も多い曲を声だけで組み立てるには、この中間帯が向いています。

どういうグループなのか

結成は2015年の冬。編曲者でプロデューサーのジェイミー・レイが立ち上げました。

公式サイトによれば、グラミー賞・ダヴ賞・アメリカン・ミュージック・アワードの受賞者たちと数多く共演しています。レパートリーはブロードウェイ、ディズニー、ジャズのスタンダード、クリスマス曲など。クラシックの合唱技法とポップスを行き来するのが持ち味です。

編曲者が自分でグループを作った、という成り立ちも特徴です。曲ごとに11人の配置を設計できるので、作品に合わせて音の厚みを変えられます。

聴くときに、どこを追うか

はじめて聴くなら、いちばん低い声を追ってみてください。

アカペラでは、ベースがオーケストラのコントラバスやチェロの役をします。ここが安定していると、上の声がどれだけ動いても崩れません。「声だけなのにオーケストラのように聴こえる」という印象の土台は、たいていこの最低音にあります。

次に、パーカッションの音が声で作られていないかを探してみてください。ドラムに似た音を口で出す技術があり、これが入ると一気にバンドらしく聞こえます。

最後に、曲の盛り上がりで音が「増えた」と感じる瞬間を探してください。楽器を足せない編成なので、厚みは人の配置の変更だけで作られています。そこが編曲の腕の見せ所です。

編成を知ると、聴き方が決まる

金管五重奏が5人、弦楽四重奏が4人であるように、声のアンサンブルにも標準の形があります。そこから外れた人数には、たいてい理由があります。

Voctaveの11人は、どちらかに寄せなかった結果の数です。アカペラの小回りと、合唱の厚み。その両方を手放さないために選ばれた編成だと考えると、聴こえ方が変わってくるはずです。