残響2秒の意味 16ホールの音響を数字で読む

満席の客席とステージ上のオーケストラを客席後方から写したコンサートホールの写真に、「音が60デシベル下がるまでの時間。」の見出しを重ねたアイキャッチ
写真=Interior of Meyerhoff Symphony Hall prior to a performance by the Baltimore Symphony Orchestra/Ser Amantio di Nicolao(Wikimedia Commons, CC0)/文字は編集部

ホールの紹介文には、たいてい「残響◯秒」と書いてあります。2秒前後という数字をよく見ます。

ただ、何が2秒なのかは、あまり説明されません。音が2秒鳴り続けるわけではありませんし、拍手が2秒残るわけでもない。

この記事では、まず定義をはっきりさせます。そのうえで、公開されている残響時間を横に並べて比べても、実はあまり意味がないことを説明します。最後に、では代わりに何を見ればいいのかを、当誌が資料を持っている16ホールで整理します。

残響時間の定義は「60デシベル」

音響学の解説記事から引きます。京都市立芸術大学名誉教授・大串健吾氏が『音楽知覚認知研究』誌に書いた「コンサートホールの音響効果」(2009年)に、定義があります。

残響時間とは、音が停止した後、音圧が60デシベル減衰するのに要する時間です。

60デシベルというのは、音の振幅が1000分の1になる、ということです。音の強さで言えば、その2乗で100万分の1。ほぼ聞こえなくなるところまで落ちるのに何秒かかるか、という指標です。

もうひとつ、条件があります。残響時間は音の高さによって変わるため、慣習的に500ヘルツの値で代表させます。500ヘルツは、だいたい真ん中のドの1オクターブ上のあたりです。

実際の測定はもっと面倒

60デシベル落ちきるまで測ろうとすると、途中で暗騒音(空調やビルの振動など)に埋もれてしまいます。そこで実務では、減衰曲線の一部だけを測って換算します。

  • RT(Reverberation Time):−5dB から −35dB の区間を測り、60dB減衰に換算したもの
  • EDT(Early Decay Time):−10dB までの初期の減衰から換算したもの

同じ「残響時間」でも、RTとEDTは別の数字です。ホールの公表値がどちらなのかは、たいてい書かれていません。

なぜ「2秒」が目安なのか

2秒という数字にも根拠があります。同じ論文が、用途ごとの最適残響時間の提案をまとめています。

提案者用途最適とされる残響時間
Barron(1993)演劇場0.7〜1.0秒
オペラ・バレエ1.3〜1.8秒
室内楽1.4〜1.8秒
オーケストラ1.8〜2.2秒
Beranek(1962)バロック音楽・イタリアオペラ1.5秒
古典派の音楽・ワーグナーのオペラ1.7秒
ロマン派音楽2.1秒

オーケストラ向けが1.8〜2.2秒。だから2秒前後が「良いホール」の目安として流通しています。

ただ、この表をよく見ると、もっと重要なことが書いてあります。用途ごとに最適値が違う。バロックは1.5秒、ロマン派は2.1秒。0.6秒も差があります。

論文はこう指摘しています。ひとつのホールでさまざまな種類の音楽を演奏する場合には、明瞭さと残響感のどちらかをある程度我慢しなければならない。

残響が長いほど「よく響く」と感じますが、そのぶん音の輪郭はぼやけます。両立しません。「残響2秒だから良いホール」という言い方は、だから正確ではありません。何を聴くかによって、良い数字は変わります。

公開値を横に並べても比較にならない

ここからが本題です。実際に公開されている数字を3つ並べてみます。

ホール公開値満席/空席周波数の指定実測か設計目標か
サントリーホール 大ホール2.1秒満席時「中音域」とのみ記載なし
東京オペラシティ コンサートホール1.96秒満席時指定なし記載なし
ザ・シンフォニーホール(大阪)約2秒満席時500Hz設計目標値

3館とも満席時である点は揃っています。ところが周波数の指定がばらばらで、ザ・シンフォニーホールについては「設計目標」と明記されています。

さらに、東京オペラシティは同じ仕様ページの中で、本文に「残響時間は、満席時1.9秒。」、仕様表に「残響 1.96秒(満席時)」と2つの表記が並んでいます。

この状態で「2.1秒 > 1.96秒 > 約2秒」と順位をつけても、測り方の違いを比べているだけになりかねません。

満席か空席かで、はっきり変わる

条件のなかでも影響が大きいのが、客が入っているかどうかです。論文の説明はこうです。

聴衆が増えると衣服が吸音材として働き、残響時間は短くなります。逆に空席のリハーサルでは長くなる。つまり同じホールでも、リハーサルと本番で響きが違うということです。

演奏者が本番でバランスを取り直すのは、この差があるからです。聴き手の側も、「同じホールなのに前回と印象が違う」ということが起こりえます。客の入りが違えば、実際に響きが違います。

数字がないときに見るもの ― ホールの形

ここまで見たとおり、残響時間は条件込みでないと読めませんし、そもそも公開していないホールも多くあります。当誌が資料を持つ16ホールでも、残響時間を公開しているのは一部だけでした。

代わりに手がかりになるのが形です。論文は、形状が音響に大きな影響を与えると述べたうえで、3つの型を挙げています。

形が変えるのは「側方からの初期反射音」(編集部作成・大串2009にもとづく) シューボックス形 直方体。左右の壁が近い 側方反射音が得やすい 音源の幅が広く感じられ 音に包まれた感じが出る ※幅が広すぎると弱まる ヴィンヤード形 客席をブロックに分け 仕切り壁を反射面に使う 響きが爽やかで繊細 反面「重厚性に欠ける」とも ※1960年代に登場した新しい形 扇形・円形 壁が外へ開いていく 側方反射音を供給しにくい 中央の席に横からの音が 届きにくい ※大ホールでは不利とされる 共通して効いているのは、直接音のあと80ミリ秒以内に届く反射音 音速は毎秒約340m。経路が1m長くなるごとに約3ミリ秒遅れる。 この「最初の80ミリ秒」に横から音が来るかどうかを、形が決めている。
編集部作成。特徴の記述は大串(2009)の分類にもとづく。

ポイントは側方(横)からの初期反射音です。直接音が届いたあと80ミリ秒以内に到達する反射音を初期反射音と呼び、これが横から来ると、音源が実際より幅広く感じられ、音に包まれた感じが生まれます。

シューボックス形が古くから評価されてきたのは、左右の壁が近いので、横からの反射音が自然に確保できるからです。逆に扇形は壁が外へ開いていくため、中央の席に横からの音を届けにくい。

16ホールを、規模と形で並べる

当誌が資料を持つ16ホールを、客席数・開館年・確認できた形状で並べます。形状が一次情報で確認できなかったものは、推測で埋めず「未確認」としました。

ホール客席数開館形状
関内ホール 小ホール264—未確認
ザ・フェニックスホール(大阪)3011995未確認
フィリアホール(横浜)500—未確認
浜離宮朝日ホール5521992シューボックス
しらかわホール(名古屋)7001994シューボックス
さくらホール(大和田)735—未確認
レザンホール(塩尻)1,206—未確認
東京オペラシティ コンサートホール1,6321997シューボックス(公式)
ザ・シンフォニーホール(大阪)1,7041982シューボックス(※後述)
京都コンサートホール1,8331995シューボックス
LINE CUBE SHIBUYA1,956—未確認
ミューザ川崎シンフォニーホール1,9972004ヴィンヤード
サントリーホール 大ホール2,0061986ヴィンヤード(公式)
東京文化会館 大ホール2,3031961未確認
フェスティバルホール(大阪)2,7002013未確認
NHKホール3,6011973未確認

※ ザ・シンフォニーホールについては、大串(2009)がシューボックス形の代表例として挙げている一方、ホール側は「全席がステージを囲むアリーナ・シアター形式」と説明しています。呼び方の違いなのか分類の違いなのかは、当誌では確認できていません。
※ しらかわホールは2024年2月末で一度閉館し、その後、存続を前提とした売却により再開に向けた準備が進められました。訪問前に最新の運営状況をご確認ください。

この表から読めることを、いくつか挙げます。

1982年が境目になっている

論文によれば、日本最初の本格的なクラシック専用ホールは1982年のザ・シンフォニーホール、次いで1986年のサントリーホールです。

それ以前、日本のホールの多くは多目的ホールでした。講演も式典もコンサートも入る。多目的ホールはマイクとスピーカーを使うため、響きすぎるとハウリングが起きます。だから「あまり響かないように」造られていました。

表のなかで東京文化会館(1961年)とNHKホール(1973年)が古い世代にあたります。この2つを専用ホールと同じ物差しで測るのは、そもそも設計思想が違います。

小さいホールは、外れが少ない

論文にこういう指摘があります。ホールが小さくなると、音が悪いということで悪名の高いホールは、大型ホールに比べて少ない。

理由は、直接音と初期反射音の時間差が短くなる(30ミリ秒以内に収まる)から、と説明されています。壁が近いので、横からの反射がすぐ返ってくる。

表の上半分にある300〜700席台のホールは、この点で有利な条件を持っています。「小さいホールだから音響も控えめ」ではありません。むしろ逆のことが起きやすい。

では、どの席で聴くか

形と規模がわかったら、次は席です。論文の記述を整理します。

座席聴こえ方
前方直接音が強い。明確な音を聴きたいならこちら
後方反射音が相対的に強い。広がり感のある音を聴きたいならこちら
上階大ホールでは1階より良いと経験的に言われる
ステージ後方指揮者の表情は最適。ただしピアノ協奏曲などでは避けたほうがよい

上階が良いと言われる理由

これには説明がついています。天井に近い座席になるほど、直接音と、広い天井からの反射音の到達時間差が少なくなる。その結果、直接音と反射音があまり離れず、一体となった感じになる、というものです。

論文は具体例も挙げていて、東京文化会館では1階よりも最上階の5階を好む聴衆が多く、京都コンサートホールでも1階中央から後方より、最後部正面の3階のほうが良いと言われるとのことです。

ピアノ協奏曲でステージ後方を避ける理由

こちらも物理的な話です。ピアノは蓋が客席側に開いているので、ステージ後方の席にはピアノからの直接音がほとんど到来しません。間接音だけが聞こえることになり、非常に不明瞭な音になります。

指揮者の表情を見たいという理由でステージ後方を選ぶのは合理的ですが、曲目によって向き不向きがはっきりあるということです。

最後に ― 好みには個人差がある

ここまで数字と物理の話をしてきましたが、論文の後半には、それを相対化する実験が紹介されています。

Schroeder(1980)の研究です。4つのホールの合計10座席にダミーヘッドマイク(人の頭を模した装置で、両耳の位置で録音する方式)を置いてステレオ録音し、10人の聴き手に聴き比べてもらった。

結果は、聴き手によるホールの響きの好みの差は大きく、ある聴き手が最も好んだホールを、別の聴き手が最も好まないということが起きています。

ただし平均をとると、傾向はありました。この4ホールは残響時間が2.2秒以下でしたが、その範囲内では残響時間が長いほうが好まれた。もうひとつ、壁や天井が鏡のように正確に反射するより、音をさまざまな方向にまき散らすホールのほうが好まれたことも示されています。

つまり、数字で説明できる部分はあるけれども、最後は自分の耳で決めるしかないということです。

それでも、残響時間の定義と、形が何を決めているかを知っておくと、ホール選びと席選びの手がかりにはなります。「残響2秒」と書いてあったら、満席時なのか、どの周波数なのか、実測か目標か。そこまで見るようになると、ホールの紹介文の読み方が少し変わります。