浜離宮朝日ホール 552席、室内楽を聴くならこのサイズ

広間で弦楽器と鍵盤楽器の奏者が演奏し、着飾った聴衆が間近で聴いている19世紀の絵画に、「残響1.7秒は室内楽の最適値ど真ん中」の見出しを重ねたアイキャッチ
絵画=カール・シュヴェニンガー(子)『演奏会』(Wikimedia Commons, パブリックドメイン)/文字は編集部

当誌では以前、16のホールの残響時間を並べて「公表値を横に並べても比較にならない」と書きました。満席か空席か、どの高さの音で測ったか。条件が書かれていないことが多いからです。

浜離宮朝日ホールは、その例外にあたります。

残響1.7秒。満席、500Hz。条件まで公表されています。

1.7秒という数字の位置

残響時間には、音楽の種類ごとに「このあたりが良い」とされる範囲があります。音響学で参照される目安を並べます。

何を聴くか最適とされる残響時間
オーケストラ1.8〜2.2秒
室内楽1.4〜1.8秒
オペラ・バレエ1.3〜1.8秒
演劇0.7〜1.0秒

浜離宮朝日ホールの1.7秒は、室内楽の範囲にきれいに収まります。このホールは「室内楽専用ホール」を名乗っていますが、名乗りと数字が一致しているということです。

響きが長すぎれば、速い音符が溶けて輪郭を失います。短すぎれば、音が痩せて響きの余韻が消えます。弦楽四重奏やピアノ三重奏のように、少人数で細かく動く音楽には、この1.4〜1.8秒あたりが合うとされています。

なぜ条件が書いてあることが重要なのか

残響時間は、客席が埋まっているかどうかで変わります。人の体と衣服が音を吸うため、満席のほうが短くなります。

つまり同じホールでも、「空席1.9秒」と「満席1.7秒」は両方正しい。どちらを載せるかで、数字の見え方が変わってしまいます。

測定した音の高さも効きます。残響時間は慣習的に500Hzの値で表しますが、明記されていなければ確かめようがありません。

浜離宮朝日ホールは「満席」「500Hz」の両方を書いています。読者が他館と比べられる形で出している、ということです。

552席という規模を、容積から読む

席数だけでは、ホールの性格は分かりません。空気の量を人数で割ると、もう少し見えてきます。

公式が公表している容積は5,800m³。552席で割ると、1人あたり約10.5m³です。

当誌が同じ計算をした他のホールと並べます。

ホール容積席数1人あたり
浜離宮朝日ホール5,800 m³552約10.5 m³
東京オペラシティ15,500 m³1,6329.5 m³
NHKホール25,000 m³3,601約6.9 m³

ホール全体はいちばん小さいのに、1人あたりの取り分はいちばん多い。席数の伸び方が、容積の伸び方より速いためです。

舞台から出る音の総量は変わらないので、聴く人が少ないほど1人に届く分は濃くなります。小さいホールで音が近く感じられるのは、この理屈です。

音響の研究でも「ホールが小さくなると、音が悪いということで悪名の高いホールは、大型ホールに比べて少ない」と指摘されています。小さいことは、それ自体が有利に働きます。

どの席を選ぶか

浜離宮朝日ホールはシューボックス型です。靴箱のような細長い直方体で、側面の壁が近いため、横からの反射音が届きやすい形になります。

奥行きは32m、天井の高さは12.55〜13.05m。552席でこの天井高が、1人あたり10.5m³という数字の正体です。

階席数性格
1階448席奏者との距離が近い。弦の擦れる音や息づかいまで届く
2階104席前方はステージ全体と手元が見渡せる

シューボックス型は席による差が比較的小さいのが特長です。552席という規模も相まって、どこに座っても大きく外さないホールだと言えます。

そのうえで選ぶなら、ピアノの手元を見たい人は2階前方、弦楽器の実体感を取りたい人は1階、という分け方になります。車いす対応席は2席です。

室内楽を聴きに行くなら

大きいホールでオーケストラを聴くときとは、構えが違います。弱い音がそのまま届くので、客席の物音も同じように届きます。咳やプログラムをめくる音に気を配りたいのは、このサイズのホールです。

裏を返せば、弱音が痩せずに届くということでもあります。弦楽四重奏がいちばん静かになる場面や、ピアノが消え入るように終わる瞬間は、552席だからこそ成立します。

残響時間という数字の読み方そのものは、別の記事で16ホールを横断して整理しています。