RCOブラス 世界最高峰の金管セクションは、何が違うのか

アムステルダムのコンセルトヘボウの建物外観に、金管セクション18人・うち首席6人という数値を重ねたアイキャッチ
写真=Concertgebouw in Amsterdam / yisris(Wikimedia Commons, CC BY 2.0)/文字は編集部

「世界最高峰の金管セクション」という言い方は、便利すぎて中身が見えなくなります。何がどう最高峰なのか。上手いから、では説明になっていません。

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO、アムステルダム)の金管奏者によるアンサンブル、RCO BRASS。この団体を理解するには、まず母体のオーケストラがどういう人員を抱えているかを見るのが早道です。

公式サイトの名簿を数えました。金管セクションは18人。しかも首席が、ホルン・トランペット・トロンボーンにそれぞれ2人ずついます。この構成が、RCOブラスの正体を説明してくれます。

公式名簿を数えると、18人

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の公式サイトには、在籍する奏者の名前がパートごとに公開されています。金管4パートを集計すると、こうなりました。

パート人数うち首席
ホルン72
トランペット52
トロンボーン52
チューバ1―
合計186

※ 2026年8月16日時点の公式名簿より編集部が集計。トロンボーンの5名にはテナー/バス持ち替え1名とバストロンボーン1名を含みます。

RCO 金管セクションの人員構成(公式名簿より集計) ホルン トランペット トロンボーン チューバ 7 5 5 1 首席(principal) セクション奏者 合計 18人
編集部作成。公式サイトの在籍者名簿(2026年8月16日時点)をパート別に集計したもの。

「トリオから20人規模まで」が成立する理由

RCOブラスの公式プロフィールには、こう書かれています。「編成は、トリオから20人規模のアンサンブルに至るまで幅広く、ときには打楽器なども加え様々な演奏を繰り広げている」。

この一文を、さきほどの名簿と並べてみてください。金管18人に打楽器を数人足せば、ちょうど20人規模になります。つまりRCOブラスは、特別に人を集めた団体ではありません。オーケストラの金管セクションが、そのまま出てきているのです。

ここが、一般的な金管五重奏団との決定的な違いです。専業の五重奏団は、5人の固定メンバーで活動します。編成を変えるには外部から人を呼ぶしかありません。

対してRCOブラスは、母体に18人がいます。曲によって3人にも、10人にも、18人にもなれる。編成をレパートリーに合わせられるわけです。

専業の金管五重奏団RCOブラス
人員の基盤固定の5人オーケストラの金管18人
編成の幅五重奏が基本トリオ〜20人規模
合わせる相手常に同じメンバー日常的に全員が同じ指揮者の下で演奏
レパートリーの選び方編成に曲を合わせる曲に編成を合わせられる

首席が2人いる、という事実

もうひとつ、名簿から読める重要な事実があります。ホルン・トランペット・トロンボーンの3パートに、首席が2人ずついることです。

これはトップクラスのオーケストラでは珍しくない体制ですが、意味は大きいものです。首席は最も負担の重い1番パートを吹きます。マーラーやブルックナーのように金管を酷使する曲を続けて演奏する場合、1人では体力が持ちません。2人体制は、演奏水準を落とさずに公演数をこなすための仕組みです。

そしてこれは、アンサンブル活動にも効いてきます。オーケストラの本公演と並行して、別の何人かがアンサンブルの本番に出られる。18人という層の厚さと、首席の複数配置が、この団体の活動量を支えています。

金管セクションどうしで共演してきた

RCOブラスの活動歴には、ほかではあまり見ない項目が並びます。公式プロフィールによれば、次のような共演があります。

年内容
2003年アメリカ・ツアーが大きな成功を収める
2005年シカゴ交響楽団のブラス・セクションと共演(シカゴ・シンフォニー・センター)
2006年・2009年ニューヨーク・フィルハーモニックのブラス・セクションと共演(ニューヨーク)

シカゴ響とニューヨーク・フィルは、いずれもアメリカを代表するオーケストラです。その金管セクションと、セクション対セクションで共演する。これは独奏者どうしの共演とは性格が違います。

オーケストラの金管セクションには、そのオーケストラ固有の音があります。楽器の選択、ビブラートの掛け方、音の立ち上がりの揃え方。同じ曲を吹いても、シカゴとアムステルダムでは別の音がします。その2つを同じ舞台に乗せると、違いがそのまま聴こえます。

録音では、RCO Liveレーベルから2007年に『Royal Concertgebouw Brass』、2014年10月に『Brass Two』の2作が出ています。

「重厚」の中身

RCOブラスの音を表す言葉として、よく「重厚」が使われます。これも便利すぎる言葉なので、分解しておきます。

まず人数の効果。五重奏では1つの声部を1人が担当しますが、10人を超える編成では複数人が同じ声部を吹きます。音が厚くなるだけでなく、輪郭がわずかにぼやけて溶けます。これが「重い」と感じられる要因のひとつです。

次に、ホルンの人数です。名簿を見るとホルンが7人と、金管のなかで最も多い。ホルンは音がまっすぐ前に飛ばず、後ろや壁に当たって回り込んでくる楽器です。ホルンの比率が高い編成は、輪郭より響きが勝ちます。

そして、日常的に同じホールで演奏していること。奏者は自分の音がどう返ってくるかを体で覚えていて、その感覚のまま吹きます。セクションの音は、ホールとセットで育ちます。

名簿から見えること

「世界最高峰の金管セクション」を、名簿という一次資料から見直しました。分かったのは、次のことです。

金管は18人。首席は3パートに各2人。この人員があるから、トリオから20人規模まで編成を動かせる。専業の五重奏団とは出発点が違い、曲に編成を合わせられることが最大の特徴になります。

そして共演相手が、他のオーケストラの金管セクションであること。独奏者の集まりではなく、セクションという単位で勝負している団体だと分かります。

次に演奏を聴く機会があれば、まずプログラムで編成を確認してみてください。何人で、どのパートが何本か。その数字が、その日の音の設計図です。