「世界最高峰の金管セクション」という言い方は、便利すぎて中身が見えなくなります。何がどう最高峰なのか。上手いから、では説明になっていません。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO、アムステルダム)の金管奏者によるアンサンブル、RCO BRASS。この団体を理解するには、まず母体のオーケストラがどういう人員を抱えているかを見るのが早道です。
公式サイトの名簿を数えました。金管セクションは18人。しかも首席が、ホルン・トランペット・トロンボーンにそれぞれ2人ずついます。この構成が、RCOブラスの正体を説明してくれます。
公式名簿を数えると、18人
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の公式サイトには、在籍する奏者の名前がパートごとに公開されています。金管4パートを集計すると、こうなりました。
| パート | 人数 | うち首席 |
|---|---|---|
| ホルン | 7 | 2 |
| トランペット | 5 | 2 |
| トロンボーン | 5 | 2 |
| チューバ | 1 | ― |
| 合計 | 18 | 6 |
※ 2026年8月16日時点の公式名簿より編集部が集計。トロンボーンの5名にはテナー/バス持ち替え1名とバストロンボーン1名を含みます。
「トリオから20人規模まで」が成立する理由
RCOブラスの公式プロフィールには、こう書かれています。「編成は、トリオから20人規模のアンサンブルに至るまで幅広く、ときには打楽器なども加え様々な演奏を繰り広げている」。
この一文を、さきほどの名簿と並べてみてください。金管18人に打楽器を数人足せば、ちょうど20人規模になります。つまりRCOブラスは、特別に人を集めた団体ではありません。オーケストラの金管セクションが、そのまま出てきているのです。
ここが、一般的な金管五重奏団との決定的な違いです。専業の五重奏団は、5人の固定メンバーで活動します。編成を変えるには外部から人を呼ぶしかありません。
対してRCOブラスは、母体に18人がいます。曲によって3人にも、10人にも、18人にもなれる。編成をレパートリーに合わせられるわけです。
| 専業の金管五重奏団 | RCOブラス | |
|---|---|---|
| 人員の基盤 | 固定の5人 | オーケストラの金管18人 |
| 編成の幅 | 五重奏が基本 | トリオ〜20人規模 |
| 合わせる相手 | 常に同じメンバー | 日常的に全員が同じ指揮者の下で演奏 |
| レパートリーの選び方 | 編成に曲を合わせる | 曲に編成を合わせられる |
首席が2人いる、という事実
もうひとつ、名簿から読める重要な事実があります。ホルン・トランペット・トロンボーンの3パートに、首席が2人ずついることです。
これはトップクラスのオーケストラでは珍しくない体制ですが、意味は大きいものです。首席は最も負担の重い1番パートを吹きます。マーラーやブルックナーのように金管を酷使する曲を続けて演奏する場合、1人では体力が持ちません。2人体制は、演奏水準を落とさずに公演数をこなすための仕組みです。
そしてこれは、アンサンブル活動にも効いてきます。オーケストラの本公演と並行して、別の何人かがアンサンブルの本番に出られる。18人という層の厚さと、首席の複数配置が、この団体の活動量を支えています。
金管セクションどうしで共演してきた
RCOブラスの活動歴には、ほかではあまり見ない項目が並びます。公式プロフィールによれば、次のような共演があります。
| 年 | 内容 |
|---|---|
| 2003年 | アメリカ・ツアーが大きな成功を収める |
| 2005年 | シカゴ交響楽団のブラス・セクションと共演(シカゴ・シンフォニー・センター) |
| 2006年・2009年 | ニューヨーク・フィルハーモニックのブラス・セクションと共演(ニューヨーク) |
シカゴ響とニューヨーク・フィルは、いずれもアメリカを代表するオーケストラです。その金管セクションと、セクション対セクションで共演する。これは独奏者どうしの共演とは性格が違います。
オーケストラの金管セクションには、そのオーケストラ固有の音があります。楽器の選択、ビブラートの掛け方、音の立ち上がりの揃え方。同じ曲を吹いても、シカゴとアムステルダムでは別の音がします。その2つを同じ舞台に乗せると、違いがそのまま聴こえます。
録音では、RCO Liveレーベルから2007年に『Royal Concertgebouw Brass』、2014年10月に『Brass Two』の2作が出ています。
「重厚」の中身
RCOブラスの音を表す言葉として、よく「重厚」が使われます。これも便利すぎる言葉なので、分解しておきます。
まず人数の効果。五重奏では1つの声部を1人が担当しますが、10人を超える編成では複数人が同じ声部を吹きます。音が厚くなるだけでなく、輪郭がわずかにぼやけて溶けます。これが「重い」と感じられる要因のひとつです。
次に、ホルンの人数です。名簿を見るとホルンが7人と、金管のなかで最も多い。ホルンは音がまっすぐ前に飛ばず、後ろや壁に当たって回り込んでくる楽器です。ホルンの比率が高い編成は、輪郭より響きが勝ちます。
そして、日常的に同じホールで演奏していること。奏者は自分の音がどう返ってくるかを体で覚えていて、その感覚のまま吹きます。セクションの音は、ホールとセットで育ちます。
名簿から見えること
「世界最高峰の金管セクション」を、名簿という一次資料から見直しました。分かったのは、次のことです。
金管は18人。首席は3パートに各2人。この人員があるから、トリオから20人規模まで編成を動かせる。専業の五重奏団とは出発点が違い、曲に編成を合わせられることが最大の特徴になります。
そして共演相手が、他のオーケストラの金管セクションであること。独奏者の集まりではなく、セクションという単位で勝負している団体だと分かります。
次に演奏を聴く機会があれば、まずプログラムで編成を確認してみてください。何人で、どのパートが何本か。その数字が、その日の音の設計図です。