2026年、ワールドカップ決勝。試合前にスペイン国歌が流れました。演奏していたのは、オーケストラでも軍楽隊でもありません。
たった5人の金管グループです。
スパニッシュブラスといいます。トランペット2本、ホルン、トロンボーン、テューバ。クラシックの世界では「金管五重奏」と呼ばれる、小さな編成です。
金管五重奏は、どのくらいの規模なのか
オーケストラは100人近くになることがあります。弦楽四重奏は4人。金管五重奏はその中間で、5人です。
人数は少ないのに、音はよく通ります。金管楽器は屋外でも聞こえるように作られてきた楽器だからです。式典やスポーツの場面で金管が使われるのは、この性質によります。
| 楽器 | 人数 | 役どころ |
|---|---|---|
| トランペット | 2 | いちばん高い音。旋律を受け持つことが多い |
| ホルン | 1 | 中音域。柔らかい音で上下をつなぐ |
| トロンボーン | 1 | 中低音。和音の厚みをつくる |
| テューバ | 1 | いちばん低い音。土台を支える |
※ この編成は金管五重奏の標準形です。スパニッシュブラスのメンバーと担当楽器は、公式サイトのBiographyページで確認しました(2026年9月時点)。
1989年から、同じ編成で
結成は1989年です。公式サイトによれば、これまでに60か国以上で演奏してきました。
転機になったのは1996年、フランスのナルボンヌ国際金管五重奏コンクールで第1位を取ったことです。公式サイトは、このコンクールを「この編成では世界で最も権威がある」と説明しています。
そこからの歩みを、公式の記述から年代順に並べてみました。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1989 | 活動開始 |
| 1995 | アストゥリアス皇太子賞の授賞式で演奏 |
| 1996 | 第6回 ナルボンヌ国際金管五重奏コンクール 第1位 |
| 2017 | バンキア音楽才能賞(バレンシア州)第1位 |
| 2019 | Espai Ter de Música 賞 |
| 2018–2022 | カルレス・サントス賞(録音に対して)を5年連続 |
| 2020 | スペイン文化省「国民音楽賞」 |
| 2025 | マティルデ・サルバドール賞 |
| 2026 | AIE賞(生涯功労)/ワールドカップ決勝でスペイン国歌を演奏 |
2020年の国民音楽賞について、公式サイトは「同国最高の音楽栄誉」と書いています。室内楽の団体が受ける賞としては、最上位の国家的評価です。
アルバムは30枚以上。うち2枚は家族向け・教育的な内容のDVD付きです。演劇や映画の音楽も手がけていて、国立劇場センターの舞台作品や、映画のサウンドトラックに名前が残っています。
「クラシックの小さなジャンル」ではない
金管五重奏と聞くと、オーケストラの脇にある小さな分野という印象を持つかもしれません。
ただ、ここまで並べた事実はその印象と合いません。37年続き、60か国を回り、国から最高位の音楽賞を受け、国の代表戦で国歌を吹く。これは「小さな分野の代表」ではなく、ひとつの主役の形です。
同じ5人が長く続けていることも、この編成では珍しい部類に入ります。人数が少ないぶん、ひとり替わると音が変わってしまうためです。
では、なぜ踊りが入るのか
2026年6月、スパニッシュブラスは日本で公演を行いました。「フラメンコの魔法」と題した、フラメンコとの共演です。金管五重奏に踊り手が加わる形でした。
意外な組み合わせに見えますが、両者には共通点があります。どちらも、屋外や広場で育った音楽だという点です。
フラメンコは踊り・歌・ギターに、手拍子と足音が加わります。拍をはっきり刻み、体で感じる音楽です。金管も、遠くまで届くことを前提に発達しました。音量と、リズムの輪郭の鋭さ。この2つが重なります。
スペインの団体がフラメンコと組むのは、地元の音楽を持ち込んだというより、もともと近い場所にいたものを一緒に鳴らしたという理解のほうが近いかもしれません。
※ この公演は2026年6月に終了しています。当誌の運営会社である株式会社プロアルテムジケが主催しました。
何から聴くか
金管五重奏には、クラシックの編曲ものから現代曲、ジャズ寄りの作品まで幅があります。最初の1枚を選ぶなら、知っている曲が入っているアルバムから入るのが早いと思います。
5人しかいないので、誰がどの声部を吹いているかが追いやすいのも、この編成の良さです。オーケストラだと埋もれてしまう内側の動きが、はっきり聞こえます。
金管五重奏という編成そのものの成り立ちと、5本それぞれが受け持つ音域については、別の記事で整理しています。