NHKホール 3,601席の大箱で、席はどう選ぶか

NHKホールの外観写真に、「残響が0.4秒変わる。」の見出しを重ねたアイキャッチ
写真=NHKホール/Chiether(Wikimedia Commons, CC BY 3.0)/文字は編集部

ホールの紹介に「残響○秒」と書いてあることがあります。たいてい1つの数字だけです。

NHKホールは、そこが違います。満席1.8秒、空席2.2秒。両方を公表しています。

0.4秒の差です。この1行から、大きいホールで何が起きているかが見えてきます。

まず、席の数を確かめる

NHKホールは1973年開館。NHK交響楽団の本拠地で、番組収録にも使われる多目的ホールです。

公式サイトは座席数を、固定席と可動席に分けて公表しています。

階固定席可動席
1階890ピット160/右11・12列 20/左11・12列 21
2階1,335—
3階1,175—
計3,400201
合計3,601席

※ 階別の内訳を積み上げると、公表されている合計3,601席と一致します(編集部で検算)。定員は4,010名と公表されています。

「3,601席」は最大値です。可動席201席は公演によって使われません。チケットを取るときに見える座席表が、この数字より小さいことがあります。

0.4秒は、何の差か

残響時間は、音が鳴りやんでから消えるまでの長さです。長いほど響きが豊かに感じられ、短いほど音の輪郭がはっきりします。

この数字は、客席が埋まっているかどうかで変わります。人の体と衣服が、音を吸うからです。座席そのものにも吸音する材質が使われますが、人が座ればさらに吸われます。

つまりリハーサルと本番では、同じホールでも響きが違います。NHKホールの場合、その差が0.4秒として公表されている、ということです。

客席から見ると、これは「本番のほうが音の輪郭がはっきりする」という意味になります。ゲネプロを聴く機会があれば、同じ曲でも印象が変わるはずです。

1人あたりの取り分を計算する

もうひとつ、公式が出している数字があります。コンサート時の容積が25,000立方メートル。ホールの中の空気の量です。

これを座席数で割ると、1人あたりに配られる空間の量が出ます。25,000 ÷ 3,601 で、約6.9立方メートルです。

当誌が同じ計算をした他のホールと並べてみます。

ホール1人あたりの容積席数
浜離宮朝日ホール約10.5 m³552
東京オペラシティ9.5 m³1,632
NHKホール約6.9 m³3,601

NHKホールは、1人あたりで見ると他より少なくなります。ホール全体は大きいのですが、それ以上に人数が多いためです。

これは音量の問題につながります。舞台から出る音の総量は変わらないので、聴く人が増えるほど、1人に届く分は薄くなります。大きいホールで音が遠く感じられることがあるのは、この理屈です。

では、どの席を選ぶか

ここまでの数字から言えるのは、NHKホールでは「舞台に近いこと」の価値が、小さいホールより大きいということです。1人あたりの取り分が少ないぶん、距離の影響が出やすくなります。

そのうえで、階ごとの性格を整理します。

階向いている人注意
1階音の直接感を取りたい。奏者の動きを見たい後方は舞台まで距離がある
2階前方全体のバランスを聴きたい人気があり、早く埋まりやすい
3階価格を抑えたい。全体を俯瞰したい舞台が遠い。双眼鏡があると違う

2階の前方が良いとよく言われます。舞台からの距離と、全体が見渡せることの釣り合いが取れる位置だからです。ただし人気があるぶん、選べるとは限りません。

3階になるなら、双眼鏡を持っていくかどうかで満足度がかなり変わります。音は届きますが、表情や指づかいは肉眼では厳しい距離です。

比べるときに、気をつけること

NHKホールは多目的ホールです。クラシック専用ホールとは設計の前提が違います。

日本で最初のクラシック専用ホールは1982年に開館しました。NHKホールはそれより9年前、1973年の建物です。専用ホールという発想が定着する前の世代にあたります。

ですから、専用ホールと同じ物差しで「響きが足りない」と評価するのは、少し的を外します。テレビ収録もポップスも受け入れる建物として設計されている、という前提で聴くほうが実際に近いはずです。

覚えておくと役に立つこと

大きいホールに行くときは、席を選ぶ前に「何席のホールか」を見ると判断しやすくなります。3,000席を超えるなら、同じ価格帯でも前方を優先する価値が高くなります。

そして本番の響きは、公表値の「空席」ではなく「満席」のほうに近くなります。NHKホールなら2.2秒ではなく1.8秒です。数字を見るときは、どちらの条件かを確かめてください。

残響時間という数字の読み方そのものは、別の記事で16ホールを横断して整理しています。